先般、ある会社の人事部長から採用の基準について相談を受けた。学生時代の他大学の野球部の友人である。
面接試験で何を基準に評価すればいいのかということである。
一部上場企業の商社となれば、応募してくる学生の成績は似たりよったりで甲乙つけ難いというのが悩みだそうである。
そもそも人間にはそれがなければ人間足り得ないもの、本質的要素と呼ばれるものがある。それは徳とか徳性というものである。
一方で、あればあったで越したことのないもの、それがなくても人間足ることに支障がないもの、付随的要素である知識や技能と呼ばれるものがある。
徳とは平たく言うと、人が人を愛するとか、人に尽くすとか、人に報いるとかそれがなくなったらおよそ人間足り得ないものである(安岡師)。
幕末の名君だった薩摩藩主島津斉彬が朋友の越前藩主松平春嶽に対して、うちの藩には世間を見渡しても得難い非凡な人物がいると言ったことがある。
薩摩藩では現実に名家が多かったので、春嶽公はどこの名家の出身ですかと尋ねたところ、斉彬公はいやいやそんな身分のものではなく、もっともっと軽輩ですと答えた。
そこで春嶽公はさぞかし非凡な知識、技能を持った者かと尋ねたところ、斉彬公は別にこれといった才能はなく、頭はむしろ私の方が良いくらいですと答えた。
それがどうして偉いのかと尋ねたところ、斉彬公はこの人物はさして知識、技能はないが、偉大な仁者であると言われた。
西郷南洲こと隆盛である。
人間の本質的要素である徳性というものを豊かに備えていた人物である。
在学中にA評価をいくつ取ったとか、首席で卒業したとかそういうものは二の次である。
観るべきはその人物の徳性である。
参考になったかどうかはわからないが、後日光る人物を採用できたという報告があった。
この先が愉しみであるとも言っていた。
採用する側もされる側も同じ人間である。
面接試験では採用する側の力量も問われるものである。
しっかりと眼力をもって事に臨むべし。
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